HAWAI SAWANOBORI Exp.2012
観光客で溢れかえるホノルルの町と美しいビーチ。サーファーにとって聖地であろうこの島は僕にとって縁の無い土地と思っていた。しかし、ハワイは探求者たちを満足させる魅力溢れる自然を持っていたのだった。
元々、ハワイ カウアイ島のwaialea streamを沢登りの対象として見つけ出したのはヘリツアーのプロモーションビデオがきっかけだ。実際にヘリコプターの機内から見下ろしたwaialea
streamの大ゴルジュは、ここ以外では見られない特異な姿で僕らを惹きつけた。南の島ハワイでの体験を紹介したい。写真・動画はこちらから
ハワイ カウアイ島 waialea stream
4月28日 (1日目)小雨後晴れ曇
未知なるwaialea streamの核心について思いを馳せながら谷へのアプローチを歩く。「あの圧倒的なゴルジュ地形は遡行の対象になり得るのだろうか?」、「大雨が降ったらどうなってしまうのだろう」。。。期待と不安が入り混じるこの時間が僕は好きだ。
赤茶けた乾燥地帯~日本的森林~亜熱帯と変化する植生を楽しみながら谷へ下りwaialea streamへ踏み込んだ。入渓後3時間、近づいてくるゴルジュの存在を、先に見える側壁の圧迫感と共に感じた。「あの先はどうなっているのだろう?」早く覗いて見たいと先を急いだ。ゴルジュのほんの入口であるはずの最初の滝F13※を目前にする。強烈なV字ゴルジュに架かる2段20m。火山性の谷の脆い岩に注意が必要で登攀には多くの時間を要した。この滝にロープをフィックスし、取り付き付近でタープを張った。両岸数百m上からの落石はどこにいても完全に防ぐことは難しいが、幸運な事に雨も降らずに焚き火と共に眠りにつくことができた。
※waialea streamの顕著な滝を上流から数えてFナンバーを付けた。
4月29日(2日目)晴れ時々曇り
F13をユマーリングすると、奥はゴルジュになっていて泳いで小滝脇に取り付き側壁をトラバースする。2度ほどそんな事を繰り返すと沢は極端に屈曲してその先に何か特別な物が待っている予感。この沢の成否の大きな分岐点と予測していたハング滝だ。落差50mのハング滝。絶望的な逆層ハングが大きな釜を囲む様に配置され、両岸は共に標高差300mも厳しくそそり立っている。僕らに残された道はあるのだろうか。。。
アラスカルース氷河以来の本格的エイドピッチ。あの時とは対象的な南の島の大ゴルジュで大汗かきながらエイダーに乗っている。かなり脆そうなコーナールーフが先に進めそうな道の一つだった。当たれば致命傷になりそうな落石を1ダース以上落としながら進んできたけれど、進んだ距離は10mに満たない。目の前の微妙に外形したエッジにフックを掛けて何度もテ ストするがうまく行かなかった。脆すぎてカムは使えず、落石させながら恐ろしいフリークライミングで前進し、垂れ下がる枝にすがった。今にも折れそうな枝はなんとか耐えてくれて僕を上へと導いていく。ハング状のコーナーを抜けきってビレイ。上部は前進できそうな形状に見えてホッとした。ランナウトするが快適な固い岩を登ると垂直の壁で囲まれた円形劇場のようになる。ここまで、4Pも側壁を登らされて、かなりの大高巻きになりつつあるが果たしてハング滝上の沢に戻れるのだろうか。どう見ても簡単にしか見えないブッシュだらけの斜面に成瀬がロープを延ばすが一向に進まない。相当悪い様子でイボイボを土に打って騙しながらA0するしか無い部分が幾度も出てきた。後続した僕は先の様子が気になって成瀬さんに尋ねた。ノーロープで先を覗きに行っていた彼はその問いには答えず「見れば分かる。」と僕を先に進ませる。夕闇迫る中、500mの側壁のど真中で見下ろしたゴルジュの先には、先ほどのハング滝より絶望的な逆層ハングで武装された滝が何段も続いていた。
「終わったのか。。。」
何とか前進したかった。ゴルジュ通しは無理にせよ、はるか高みに見える尾根を目指すことにした。側壁ど真ん中の円形劇場で一泊。今夜の食事と明日の大高巻きに備えて、2P下の水の滴り地までヘッドライトを灯して懸垂下降し15リットルの水を上げる。
4月30日(3日目) 晴れ時々曇り
時に脆い岩を含むリッジクライミングで8Pロープを伸ばしてからザラザラした気の抜けない斜面をノーロープで上がり昼前に尾根上に抜けた。側壁登攀に13P費やしたことになる。続いているゴルジュの内部を見る為に尾根からゴルジュを見下ろせる中間部付近めがけて支尾根をかなり下り、ほぼ全容を掴んだ。ゴルジュ出口に当たる大滝F2が見える。その落ち口の上流は開けていてこの旅を締めくくるに最適なビバーク地に見えた。そちらへ移動し幕営。そこは緑の草が絨毯の様に沢を囲む別天地だった。
4日目、傾斜の無いウネウネと蛇行した沢を行き最上流を横切るトレールに合流。ここからは、長いトレールをひたすら歩いて下山。この後、僕らは、ブルーホールと言われる大滝を目指して再び沢に向かった。
大自然、圧倒的なゴルジュ、大岩壁。そのど真中に自分を置いてそれを感じたい。僕にとってExploring とは、そういうことだ。等身大の人間として生き物としてこの沢を知りたいと願った。
"Never Stop Exploring"
世界にはまだ、知られざる大峡谷が僕らを待っている。
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