米子不動 「百草丸」 初登

百草丸「正露丸右の氷」

吉谷知将 撮影 

2010年2月14日(日)
今年11年振りに米子不動を訪れた僕は「正露丸」を感慨深く見上げていた。今日も堂々としていて迫力のある氷である。当時アイス1年目の私は、正露丸の氷を登ったと言うより、先輩に引っ張り上げられてなんとか落ち口に辿り着いたようなものだった。落ち口から懸垂下降する頃にはすっかり闇に包まれ不安定な支点で恐ろしい空中懸垂をしたことを思い出す。今日はまともに登れるだろうか。11年の歳月を感じられるだろうか。
 正露丸の結氷は少しシャワーを被るものの安定していて快適なアイスクライミングを楽しむことができた。進化した道具を使い10年以上もクライミングを続ければ当たり前だが、フィフィを使う必要も無いし登攀時間も半日あれば充分だった。懸垂下降を終え取り付きに降り立って、じっくりと見上げたのは正露丸では無くてその右にかかる氷だった。11年前も存在したはずなのに全く記憶に無いその氷は地面に届き切らず下部1ピッチ分はハングした岩が露出している。右のクラックを使ってなんとか登れないだろうか。傾斜があり難しそうに見える。

左:正露丸、右:初登した百草丸

2010年2月20日(土)メンバー:馬目弘仁、佐藤裕介
アプローチを終えて快晴の中、再び正露丸の右に不安気にかかる氷を目前にする。パートナーの馬目さんと共に見上げながらルートについて話していると登れる事は当然の様にも思えてきた。発達の良いクラックによってプロテクションも問題なさそうだ。
 ミックス帯を上がり綺麗なクラックをたどっていくと、傾斜が増してさらにクラック内がベルクラに覆われ躊躇した。ダブルクラックが平行しているその部分は、傾斜は強いがドライな方を選び素手になってハンド~シンハンドジャムを決めながら登りきる。手は冷えるが心は熱く僕は今、このクライミングを心底楽しんでいる。続くクラックとミックス帯を慎重に登って、真横にカッコ良い氷柱を見ながら気分良くビレイした。不安定な草付きミックス帯を経て氷に到達。氷から滴る水シャワーを浴びながらも爽やかにバーティカルアイスを登りきると、馬目さんが終了点でニコニコしながら僕を迎えてくれた。やはり、クライミングは最高だ。

吉谷知将 撮影 

ルート概要
1P目(50m)ミックス帯と5.10のクラックをたどり、テラス状へ。
2P目(30m)ミックス帯をトラバース+クライムダウンで氷に到達する。
3P目(40m)垂直のアイスクライミング。

使用ギア:スクリュー、カム、トライカム、ナッツ

ルート名「百草丸」について:百草丸は長野の薬で、自然の恵み生薬を効果的に配合した苦味健胃剤から。
自然の恵みをうまく利用させてもらいこのラインを登ることができて最高に良い気分でした。ちなみに氷の届いていない下部のフェース帯にハンガーボルトが散見されるが、本ルートは、ボルトラインとは別の物です。